俗にいうライトノベルズとして出版されている短編集だけど、「これは文学だ」と感じました。世代を超えて共感できる、やさしく切ない物語、三本入り。
ヤングアダルト(YA)は、いま出版界でもっとも活気のあるジャンルで、こうした『珠玉』といえる作品もままあります。マンガ絵の表紙に引いてしまって手をつけないのはもったいないです。(推薦・たつみや章)
乙一著 角川スニーカー文庫 本体476円
糺ノ森に住む名門・下鴨家の三男・矢三郎は、ふだんは目立たない「腐れ大学生」の姿で外出する。なぜなら彼は狸だから。彼の父は偉大な名士だったが、狸鍋にされて死んだ。
宿敵である夷川一家(狸)や、天狗から神通力を巻き上げた美女(人間)などなどが絡んだ賑々しい化かし合いは、やがて下鴨一家の危機へと突き進む。
カエルに化けて井戸に引きこもっている次男が、わたしのお気に入り(笑) 大人向けユーモア・冒険ファンタジー。 (推薦・たつみや章)
森見登美彦著 幻冬舎 本体1500円
『ハナニアラシノタトエモアルゾ 「サヨナラ」ダケガジンセイダ』というフレーズが、井伏鱒二による漢詩『勧酒』の訳だというのを初めて知った。井伏の軽妙洒脱な訳で、これまた初めて、漢詩人たちの人間味を親しいものに感じた。けだし名訳である。
井伏鱒二の作品は『山椒魚』しか知らないという方におススメ。岩波文庫にも『井伏鱒二詩集』があります。(推薦・たつみや章)
井伏鱒二作 講談社文芸文庫 税込み987円
天国行きの条件として、自殺志願者100人の命を救えと神から命じられた、高岡裕一(享年十九)ほか四名の自殺した幽霊たち。四十九日間と期限を切られた試練をクリアすることができるのか!
年間自殺者が3万人を超える、現代人の心の病巣に次々と直面しつつ頑張る、幽霊4人の「怒涛の救助作戦」は、一本芯の通った傑作エンターテイメントだ。
(推薦・たつみや章)
高野和明著 文春文庫 本体686円
もともと杉山先生のアスペルガー症候群についての本や論文を読んで、とても理解しやすいと思っていたのですが、今回のこの新書は、発達障害全体の集大成という感じで、内容も大変共感できました。
子ども時代だけでなく、その子どもが大人になってからどうかというところまで診ているので、的確なアドバイスがかけるとのだと思います。
“目からウロコ”というところが多く、教師や小児科医はもちろんのこと、なるべく沢山の人に読んでほしい本でした~。(推薦・やまのうち)
杉山登志郎著 講談社現代新書 本体720円
十七歳のリディア・カールトンは、妖精が見える。家の前に掲げた「フェアリー・ドクター」の看板は、町の人々の失笑を買うばかりなのだけれど……リディアを雇いたいという人物があらわれた。それも誘拐してまで! 伯爵と名乗る美青年エドガーの正体は? 昔なら少女小説、いまはライトノベルズと呼ばれる作品だが、これがなかなかに骨太なミステリーに仕上がっている。第一巻『あいつは優雅な大悪党』でハマッた。続きを買いに行かなきゃ。 (たつみや)
谷瑞江 作 集英社コバルト文庫 各巻500円~560円(税込み)
ヤングアダルト(中高生)向けの読書案内の、海外作品編。 十代で出会う本は、『誰にも言えない悩み』に応えてくれる……世界各国で若者たちが愛読しているロングセラーの名作100選。 監修者はまえがきで、「いまの日本、若者も年輩者もみんな目が内側に向いていて、日本しか見なくなってきている」と嘆き、「世界は広い。そして世界の想像力は驚くほどの可能性と意外性に満ちているし、なにより楽しい。ぜひぜひそれを味わってほしい」と語る。 私も同感だ。 (たつみや) 金原瑞人 監修 すばる舎 発行 1500円(税別)
子どもではないが、大人でもない、中高生を対象とした「YA(ヤングアダルト)向け作品」というジャンルは、監修者や赤木かんこらの熱心な提唱で、図書館や店頭に「ヤングアダルト・コーナー」が設けられるまでに浸透し、かつ出版も隆盛をみせている。 いちばん本を読んで欲しい中高生の、読書離れが著しい。この本は、学校図書館にぜひとも置いて欲しいし(できれば各教室にも)、中高生に読書を勧める立場の大人には必読の参考書だ。 (たつみや) 金原瑞人 監修 すばる舎 発行 1500円(税別)
木下始が、転校してきた4年1組の教室であいさつをしようとしたとき、とつぜん目のまえにすきとおった男の人が、空中を飛んでいるのが見えた。背中に小さなつばさがあった・・・ ビリにだけ見えるという、へんな神さまがあらわれたのだ。みんな神さまを見たがって、クラスはおおさわぎ! ファンタジーの名手、岡田淳の「路傍の石幼少年文学賞」受賞作品。ポップな絵柄が、そのまま作品の雰囲気になっていて、大人が読んでも楽しいほがらかなファンタジー。(たつみや)
岡田淳 作・絵 偕成社 発行 1000円(税別)
著者は分子生物学者。「生命とは何か?」という命題を追う、著者もふくめた科学者たちの最先端の研究を紹介しつつ、研究者たちの人間臭いドラマにも触れた、読み物として楽しめる教養本。DNA研究の歴史や成果が、平明な表現で記され、素人にもよくわかる。 理系の学者が、こんな文学的な文章を書くなんてと驚くのは、偏見というものだけれど、その柔軟な筆力が、難解な生命科学の「わかりやすい説明」を支えている。 (たつみや)
福岡伸一 著 講談社現代新書 740円(税別)
『きみにしか聞こえない』